このアルバムは、名作「ブルー」と、ジャズの要素を大胆に取り入れてジョニ・ミッチェルの名を知らしめた有名なアルバム「コート・アンド・スパーク」の間にはさまれたアルバムだ。邦題は「バラにおくる」とされる。
一曲目の「宴」を聴いてわかるとおり、前作「ブルー」を引き継いだような作りになっている。ただしここで歌われるものは、「ブルー」のように男女の愛をテーマにしたものではなく、また男女の愛と女性の生き方についてではなく、もっと広く人の生き方といったようなものを取り上げている。その意味では「ブルー」のような突き刺さる痛々しさが感じられないだけインパクトが薄いといえる。
サウンド的に感じられるのは、たとえば「パラングリル」における冒頭からのフルートの使い方や「レット・ザ・ウィンド・キャリー・ミー」でのサックスなどの管楽器、「恋するラジオ」のハーモニカ、など、ゲストプレイヤーを使った表現の幅が広がっている。リズムについても曲によってパーカッションが使われたり、「ブロンド・イン・ザ・ブリーチャーズ」ではドラムキットが登場する。ハーモニカで参加しているのは「クロスビー・スティルス・ナッシュ&ヤング」のグラハム・ナッシュだ。
といったようにサウンド面での拡張がされていることと同時に、ジョニ・ミッチェルの歌にも表現の広がりと深まりがみられる。特に俺のお気に入りは「コールド・ブルー・スティール」だ。実に透明感のある歌い方で、あまりに真剣に聴き込むと、永遠の深みに引きずられそうになる。ブルースである。ジョニ・ミッチェルの解釈したブルースの形があらわれている曲だ。
2枚の名作アルバムに挟まれて、どちらかといえば知名度の低いアルバムかもしれない。しかし「ブルー」ほどの刺々しさがないところが、逆にいえばいつまでも飽きることなく、やや軽い気分で聴くことのできるアルバムだ。
このアルバムは1972年に発表された。このCDはWEA International Inc.から発売された日本盤だ。(20070525/yoc/カルト・ミュージック・コレクション)